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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)907号 判決 1962年11月08日

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人若山資雄の上告理由第一について。

訴外長谷川和也が本件自動車を運転して原判示場所を進行中、注意義務を怠つて本件事故を起すに至つたこと、右自動車は被上告会社がその業務の用に供していたものであること、右長谷川は被上告会社の被用者であつて、同会社取扱い商品の外交販売に従事していたものであるところ、仕事上の必要に応じ随時右自動車の使用を許されていたものであることは原判決(その引用する一審判決)の確定した事実によつて明らかである。

してみると、本件自動車は、たとえ長谷川の専用するものではなく、また会社には勤務時間の定めがあつて、長谷川が本件自動車を使用したのは右勤務時間後のことであり、その使用の目的もまた原判示の如き恣意的なものであつたとしても、それらはただ被上告会社と長谷川との間の内部関係に過ぎないのであつて、外形的にこれを観れば、長谷川の本件自動車運転は、被上告会社の運転手としての職務行為の範囲に属するものとして、同会社の事業の執行と認めることの妨げとなるものではない。(昭和三〇年(オ)五四七号、同年一二月二二日当裁判所第一小法廷判決、集九巻一四号二〇四七頁、昭和三二年(オ)九九〇号、同三四年四月二三日当裁判所第一小法廷判決、集一三巻四号五三二頁各参照)

しかるに原判決は、その確定した事実関係の下において、長谷川の自動車運転は、被上告会社の事業に全く関係のないものであるとし、上告人の被上告会社に対する本訴請求を排斥するに至つたのは、審理を尽さず、民法七一五条の解釈適用を誤まり、ひいて理由不備の違法をおかしたものといわざるを得ない。そして右違法は判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであるから、他の論旨についての判断をまつまでもなく破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤朔郎)

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